
ビートルズ・ブートレッグ55年目の真実
Section 10 (セクション10) 773のレーベルに写り込んでいたもの

写真右上段:読み取れそうな部位を画像処理ソフトで切り取り
写真右下段:写真を左右反転させ、画像に処理を施す
赤線上に「Sound Studio Inc. Chicago」の文字
773のJohn Birch Society Bluesのレーベルに写っていた印刷は左のようなものだった。レーベルには前所有者の書き込んだ文字と、印刷が写ってしまった文字列がみてとれる。
例によってパソコンに取り込み、反転させ画像処理してみると、完全ではないもののいくつかの文字列が確認できた。

確認できた文字は「Family Worship Hour」と「Sound Studios Inc. Chicago」だった。
「Sound Studios Inc. Chicago」はすぐにヒットした。1959年にイリノイ州シカゴで設立された、録音、編集、マスタリング等を行う会社であることがわかった。残念ながら「Family Worship」というタイトルからは同一のレコードを簡単には見つけることもできなかった。
しかし、意外なところから写り込んだレコードの正体が分かった。それはAmazonのUSAサイトに残っていた過去に販売された中古レコードのデータだった。正式タイトルは「Day By Day With Jesus」というタイトルのレコードで一般に販売されたものではなく、ある教会による「Family Worship Hour」という家族礼拝についてのラジオ番組のために「Sound Studios INC. Chicago」が制作した放送用レコードであった。そのAmazonのウェブサイトには製作者側からラジオ放送局に送付した封筒の写真まで掲載されており、それは紛れもなくイリノイ州シカゴから発送されたものであった。

USA AmazonのWebサイトで発見した放送用原盤レコード、封筒の表にBROADCAST RECORDの文字が見て取れる。発送元はイリノイ州シカゴとなっていた。レーベルの中央には確かに「Sound Studios Inc. Chicago」の文字がある。
となるとブルースタンプ「KUM BACK」を含む771から775までのブートレッグも当時Sound Studios Inc.が利用したシカゴかあるいはその周辺に位置するレコード・プラントと同じプラントであった可能性が高い。
このプロセスの中で771、773,774そして775、これらのレコードをチェックしながら私は一つの疑問というか、ある推測が頭の中にあった。771 / Liver Than You'll Ever Be、773 / G.W.W. John Birch Society Blues、774 / Stealin'というタイトルが並ぶと、必然的にこのブートレッガーはGreat White Wonderのコピー盤も製造したのではないかと考えていた。そしてそれが、770番にくるか772番なのではないかと・・・・。
そこで私はレーベルに70mmの円形があるタイプと、29mmの円形があるタイプと両方を同一ブートレッガーが(つまり社名が同じあるいは同系列のブートレッグで)制作しているケースがないかどうか探してみた。TMOQ 、WIZARDO 、TAKRL、 CBM、Rubber Dubberなどすべて合致するものはないかと探した。この作業はわりと楽なものだった。というのもこれに合致するケースは皆無だったからである。
ところが、ついにひとつだけこの条件を満たすタイトルを発見し手に入れることができた。なんと一つのタイトルで、直径70mmと29mm両方の条件を備えているブートレッグ・タイトルがあったのである。
実はこの過程では結構時間がかかってしまった。なぜ時間を費やしてしまったかという理由とともに、そのブートレッグを紹介してみたい。
タイトルは「Great White Wonder」(Bob Dylan)である。といってもオリジナル盤ではなく最初のコピー盤でもない。正確にいうとコピー盤のコピーである。
1969年7月頃にリリースされたオリジナル盤「Great White Wonder」はすぐにコピー盤が作られた。最初のコピー盤である9月に作られたものはK氏の義理の兄弟という非常に近しい2人の人物が作ったものだった。結局、彼らは裁判所より罰金が科せられた。このいきさつと、詳しい内容は1970年2月7日のRolling Stone誌に掲載されている。その記事の中にもあるのだが、そのうちの一人はGerald Feldmanという別名があった。その別名のイニシャルをとって、このコピー盤のマトリックスにはGFという文字がつけられているのである。

写真上段は Great White Wonderの最初に作られたコピー盤、ということはブートレッグの歴史上最初のコピー・ブートレッグということになる。製作した人物は実はTMOQ、K氏の義兄弟という非常に近しい人物であった。
写真二段目は、またそこからコピーし作られたGreat White Wonder、つまりコピーのコピー盤ということになる
見開きカバーの写真右は両ディスク・レーベル
1枚(Side A/B)は直径29mmの円形ステップ、ディスク・レーベルで前セクションにおけるType Bになる。もう片方(Side C/D)は直径70mmの円形ステップでType Aであった。
Type Aのセンター・ホールの周りにはやはり円形のくぼみがある
マトリックスは同じGFで始まるがまったく筆跡は異なり、「-/2」がそれぞれ付いている。少し離れたところにはBとWのような文字があった。
最初に作られたコピー盤「Great White Wonder」 のマトリックスはGF-001/2/3/4 である。
ボブ・ディラン専門にブートレッグを紹介している某ウェブサイトではこのGFマトリックスこそが「Great White Wonder」オリジナル盤のファースト・プレスと誤った認識をしており、ファンに混乱を生じさせかねない記載なのだが、さらに、次に紹介する「Great White Wonder」は最初のコピー盤からコピーされたもので、やはりマトリックス に同じGFの文字があるため、これまた非常に紛らわしいものだ。
実際に目で確認すると明らかに違う筆跡なのだが、この紛らわしさから、私もこの再コピー盤の発見に時間がかかってしまった。写真が掲載されていない限りこれらの差異には気づかない。文字で表すと同一マトリックスなのである。
この再コピー盤こそが前述のレーベル形状が70mmの円形があるタイプと、29mmの円形があるタイプと両方を兼ね備えるものなのである。2枚組のうちSide 1/2のレーベル形状が29mmの円形。Side 3/4 が レーベル形状が70mmの円形となっている。
マトリックスは次の通り:G.F. 001-/2 BW, G.F. 002-/2 BW, G.F. 003-/2 BW, G.F. 004-/2 BW
それぞれに最後にBWというサインのような記号(?)がある
そして70mmの円形のレーベルにはやはりセンターホール外側1mmにくぼみが認められた。
これも某ウェブサイトに「このレコードはGF盤のセカンドプレス」などと間違った記載があるが。見ての通り、明らかに異なる筆跡によるマトリックスであり、レーベルの形状からすると異なるプラントでつくられたものだ。音質も間違いなく最初のGF盤からのコピーである。
この事実を見つけた時、775の真実を知りたい私にとってはかなり期待外れであった。
なぜなら、レーベルの形状は同一だが、マトリックスに775と関連しそうな文字、数字はそこには無く、筆跡も違う、さらにBWというサインのような記号が書かれていることが何よりも大きな違いだったからだ。
・・・・しかしこのレコードは後に大きな発見につながることとなった。
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