ビートルズ・ブートレッグ55年目の真実

Section 6 (セクション6 )  ナッシュビル・マトリックス(Nashville Matrix)

 レーベルに写った文字列から前進することができたので、さらに手がかりはないものかと、カバー、レーベル、マトリックスなどをよく観察した。 よく見ると「15 side 1」と書かれているところから離れた場所に、うっすらとそして非常に小さく「95」という数字を発見した。その「95」は一回見失うと、また見つけにくい本当に見にくい小さな数字であった。

  私が所有するすべてのレッド・スタンプ「KUM BACK」にそれは確認でき、それもマトリックスの一部であることがわかった。

この「95」は何を意味するのか?今まで多くのレコード盤を見てきて、マトリックスには文字列や数字が散在している時がある、中にはカッティング、金属加工そしてプレスの過程で複数の業者が工程を請け負うことがあり、その際複数のマトリックス が書き加えられたり、あるいはマザーから新たなスタンパーを作ったときもマトリックスに書き加えがあったりする。おそらく「95」もそのたぐいではないかという憶測から「95」が何であるか調べ始めた。

 すると「95」はナッシュビル・マトリックス(Nashville Matrix)と呼ばれている、あるレコード・プラントの製造プロセスにつけられる固有のナンバーのひとつであることがわかった。詳しく説明すると、テネシー州ナッシュビルにNashville Phono Matrix, Inc.という会社があった。1960年代の初めから30年間、この会社はプレス工場とレコード制作過程の金属部品の製造を行ってきた。時期などにより書き加えられるナンバーは違い、数種類発見されているのだが、中でも「95」で表記されたマトリックス製造はナッシュビルの工場で行われ、プレスはミシガン州デトロイトにあるArcher Record Pressingというプレス工場でプレスされたものであることがわかった。ちなみにこの「95」で表されるArcher Record Pressingは1962年から1985年までの間での製造であったようである。

← 1967年「Record World」7月27日号に掲載されたNashville Phono Matrix, Inc.の広告

参考までに、ナッシュビル・マトリックス(Nashville Matrix)をもつ正規盤レコードをいくつか紹介しておく。

(Reference 1)は「Bill Moss And The Celestials」というアーティストの「I Have Already Been To The Water」(BM 350)という1970年リリースのアルバムである。マトリックスにはカタログ・ナンバーから離れたところに「95」の数字を見て取れる。このレコードを制作した会社はミシガン州デトロイトにある「Westbound Records, Inc.」というレーベルである。


写真上段は(Reference 1)

Bill Moss And The Celestials / I Have Already Been To The Water」(BM 350)


写真下段は(Reference 2)

Gloria Taylor / You Got To Pay The Price (Glo-Whiz – #1)

 (Reference 2)はGloria Taylor というアーティストによる「 You Got To Pay The Price」というタイトルのシングル盤。1969年にリリースされた。やはり「95」の文字を見て取れる。こちらの「Glo-Whiz」というレーベルはテネシー州ナッシュビルにある。

 さて、セクション5より前進し、レッド・スタンプ「KUM BACK」がデトロイトでプレスされたことがゆるぎない事実となりつつあった、さらに何かがわかるかもしれないと思い、他にナッシュビル・マトリックス(Nashville Matrix)をもつブートレッグがないかを探し始めた。私は自分が所有するブートレッグのマトリックスを片っぱしから調べた。

 その結果、「95」がマトリックスに書かれているブートレッグを2枚ほど見つけたのである。一つはアーティスト名やタイトルなど一切クレジットされていない「KUM BACK」(KB04)である。ホワイト・カバーにホワイト・レーベルのレコードで、唯一判断材料としてマトリックスに"BAGLES/BAGEL"と書かれている。ナッシュビル・マトリックス から考えられることはレッド・スタンプ「KUM BACK」のリリース直後にコピーされほぼ同じ地域の別ブートレッガーによってプレスされた可能性があるのだが、大変残念なことにモノラルであることとSide Bの最後の「Get Back」は途中でフェードアウトしてしまう。かなりの極小プレスと思われ、詳細な情報は皆無である。


← KUM BACK 

 (BAGLES/BAGEL)

  詳細データ→ (KB04)

レッド・スタンプ「KUM BACK」と同じマトリックスに「95」のナッシュビル・マトリックス(Nashville Matrix)がある。

 もう一つ意外なタイトルに「95」を見つけた。それは「BEST OF BOB'S BOOTLEGS」というタイトルのボブ・ディランのブートレッグである。

 この「BEST OF BOB'S BOOTLEGS」というブートレッグは古くはクリントン・ヘイリンの「BOOTLEG」の中でも最も初期に東海岸で作られたレコードとして紹介されているものだ。だが実は、単なる初期の東海岸におけるブートレッグというだけではなく、いわゆるいわくつきのブートレッグだったのである。

 カバーはホワイト・カバーにグリーンでタイトルなどがプリントされているが、最後に「And The Never Released John Birch Society Blues」とある、つまりまだリリースされていない「John Birch Society Blues」(から収録)という意味なのである。さらにディスク・レーベルには2つの十字架とDOUBLE CROSS(裏切り)という意味深な言葉が印刷されている。

このレコードにまつわる話を次のセクションで紹介したい。



次のセクション → セクション(Section)7  DOUBLE CROSS(裏切り)

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