ビートルズ・ブートレッグ55年目の真実

Section 12 (セクション12)      ブルー・スタンプ「KUM BACK」はどこで作られたか?

 セクション9と10では771,773,774そして775のブルースタンプ「KUM BACK」の特徴について触れ、レーベルに写りこんだ文字列から、イリノイ州シカゴでプレスされた可能性が浮上した。

 ところで、私はこうした作業をする際や、世界中で製作されたレコードやCDについてその詳細を調べるとき、「Discogs」というウェブ・サイトを必ずチェックしていた。「Discogs」には膨大なデータがあり(事実と異なる点も多いが)データ・チェックには欠かせないので、毎日のようにここにアクセスしレコードの情報を得ていた。特に昔のマイナーなレーベルについて知りたいときは本当に助けてくれる存在だった。しかし、「KUM BACK」については「灯台下暗し」であったかもしれない。

 ブルー・スタンプ「KUM BACK」についてあらためて「Discogs」のデータを調べることは無かったのだが、ある日、たまたまウェブ・サイトを見た時、Discogsに掲載されているブルー・スタンプ「KUM BACK」のレーベル写真に何かが写っていることに気づいた。それは「DELTA」と書かれてありロゴ・マークのようであった。

ウェブ・サイト「Discogs 」における「KUM BACK」が紹介されているページのキャプチャー画面

拡大した右の写真で見る位置の角度を変えながらよく見ると、うっすらと「DELTA」という文字のロゴ・マークが反転された状態で読み取れる

 早速調べてみると、すぐにそれはイリノイ州シカゴにある「DELTA RECORDS」というレーベルであることがわかった。セクション10で判明した文字列からも「シカゴ」であったわけだが、この「DELTA RECORDS」が1970年ころにリリースしたレコードを調べてみると意外な事実が判明したのである。

 「DELTA RECORDS」は、いわばイリノイという地域に特化したマイナー・レーベルであり、地元の高校の合唱団やジャズ・グループ、コーラス・グループなどのレコードを作っていた。私は1969年から1970年頃までの「DELTA RECORDS」からリリースされたレコードを調べ、特に興味深いものは手に入れてみた。

 1970年頃にリリースされた「DELTA RECORDS」のレコードは、前述のブルー・スタンプ「KUM BACK」(775)のように、確かにレーベルの形状が29mm円形ステップと70mm円形ステップのものがあった。ただその他に32mm円形ステップのものも確認した。そして70mm円形ステップのレコードでは確かにセンターホールより約1mmの円形くぼみも発見できた。

写真の3枚はすべてDELTA Recordsがリリースした正規レコード

写真左上段:

レーベルの形状が29mm円形ステップ

写真左下段:

レーベルの形状が32mm円形ステップ


写真下:

レーベルの形状が32mm円形ステップで、センターホールより約1mmの円形くぼみがある


 ブルー・スタンプ「KUM BACK」と771、773、774、そして「DELTA RECORDS」及び「Sound Studios INC.」が使用したプラントには、共通のプラントがあり、それは当然シカゴかその近辺にあったはずだ。

 さらにマトリックスについて照合してみた。

この当時のDELTA RECORDSのカタログ(レコード)ナンバーはDR-×××DRS-××-×××で書き表されることが多い。(若干数違うパターンもある)

後者のDRS-の後にはリリースされた年の下2桁で表せているようだ。例えば1970年リリースだとDRS-70-×××といった具合である。そしてこれらのカタログ・ナンバーは必ずマトリックスにも書かれている。

直径32㎜円形のものと70mm円形のタイプだと、ほとんどがこのカタログ・ナンバーのみのマトリクスである。

しかし、29mm円形タイプのものは違っていた。

 29mm円形タイプ・マトリックスにはDELTA RECORDSのカタログ(レコード)ナンバー以外にも固有のナンバーや記号が書かれてあるという特徴に気づいた。それはたぶんラッカー盤製造のときの製造業者によるものか何かだと考えられた。

DELTA RECORDSが1969年から1970年頃に製造したレコードの特徴を見ていくと面白い事実がわかっていった。

上写真(↑) は「PATTERN IN MUSIC」(DELTA, DR-557)というタイトルのレコードである。

レーベルに印刷されている内容から1969年5月の録音であることがわかる。そしてそのマトリックスのカタログ・ナンバーの横に書かれていたものは「BW」というサインのような記号であり、それはセクション10で紹介した再コピー盤の「Great White Wonder」と同じものだったのだ。

またさらに写真下をみてほしい。

 (↑) 写真上段は「SUBURBAN VETERANS CHORUS」(DELTA, DRS-534)というタイトルのレコードなのだが、マトリックスのカタログ(レコード)ナンバーDRS-534 A の前後に着目すると、まさにセクション9 で触れた「O.P.D.」のそれと同一である。冒頭にQW(あるいはOWか@W)の2文字があり、カタログ・ナンバーの後に特徴的なマークが刻印されている。

ちなみにこのレコードのレーベルには1968-1969と書かれているので、1969年のリリースである可能性が高い。

その他のDELTA RECORDSのタイトルで29mm円形タイプのレコードを調べてみることにした。

写真(↑)下段は「Concordia Swingers」(DELTA, DRS-70-725)というタイトルのレコードである。

ここでもやはり「O.P.D.」同様の記号と文字がカタログ(レコード)ナンバーの前後に認められる。カタログ・ナンバーから1970年のリリースで間違いないと思うが、バック・カバーの写真がネット上の情報から1970年7月に撮影されたものであることも分かった。

「SUBURBAN VETERANS CHORUS」(DRS-534)の特殊な記号の後にある番号が「11452」で「Concordia Swingers」(DRS-70-725)では「13346」である。

ということは「O.P.D.」(→詳細)のマトリックスにある「12958」はやはり1969年から1970年の間のいずれかの時期に、DELTA RECORDSが利用した同じプラントで制作されたと考えてよさそうである。

 ここで一気に点と点が線で繋がっていった。ブルースタンプ「KUM BACK」(775)はイリノイ州シカゴで作られた可能性が高いが、同様にBWサインのある「Great White Wonder」の再コピー盤も同一ブートレッガーか近い位置にいるブートレッガーによるものであろう。

 そして「O.P.D.」についても同一の時期であり、仮に違うブートレッガーによるものであっても、使用されたプラントは同一である可能性が高い。

ではそのプラントとはどこなのか?

 DELTA RECORDSのタイトルを調べていくと、29mm円形タイプのレコードではさらに他のタイプのマトリクスも見つかった。写真下(↓)は「REFLECTION IN MUSIC」(DELTA, DR-531/2)というタイトルのレコードで、レーベルに印刷された情報より1969年2月10日に録音されたミュージック・フェスティバルであることがわかる。

こちらのマトリクスではカタログ・ナンバーDR-531/2の前に「O.P.D.」同じ記号(あるいは文字)がみられるが、後には独特の記号は無く、SJW-×××と書かれてある。

さてこの記号や文字は何を意味するのだろう。これらマトリックスの意味を調べることにより、より詳しい「O.P.D.」のプラントと制作時期がわかるのではないかと考えた。

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