ビートルズ・ブートレッグ55年目の真実

Section 13 (セクション13)      プリ・エコー現象 (Pre - echo effect)

 さて、話は一回セクション2に戻り、レッド・スタンプKUM BACKとブルー・スタンプKUM BACKはどちらが先に作られたのか?はたしてどちらかがとちらかのコピーであるか?といった疑問の答えを追求してみたい。

 レッド・スタンプKUM BACKは前述の通りほぼ1970年の1月にミシガン州デトロイトでプレスされそのデトロイトから東海岸中心に供給されたようである。

 またブルー・スタンプKUM BACKはセクション12の説明の通り、イリノイ州シカゴかその周辺でプレスされた可能性が高い。

 これら二つのステレオKUM BACKの音質を簡単に分析してみたいと思う。2つのサウンドをパソコンに取り込み波形で表示させ、違いがないか何度か聞いてみる。セクション2でも触れたがブルー・スタンプKUM BACKは出力が大きく波形幅も大きくノイズも多く感じてしまう。

  そして曲中だけではなく曲と曲との間の無音部分を波形で確認しながら聞いていくと、あるパートで、かすかな音が聞こえる箇所を発見することができた。それはブルー・スタンプKUM BACK のA面3曲目の「Let It Be」において、ポールのカウント直前の無録音状態の部分で、かすかにイントロが聞こえるのである。これはプリ・エコー現象と呼ばれるものだ。現在はデジタルで音楽を聴くことがほとんどであり、CDや音楽配信サービスで育った世代にはなじみの薄い現象ではあるが、レコードやカセット・テープで育った世代では誰もが経験していることでもある。

 プリエコー現象の原因は諸説あるが、レコードを作るプロセスのカッティング作業工程において、新に作られた溝が前の溝に影響を及ぼし、レコード針が溝を滑走する際、その影響を受けた箇所でそこのパートの音をかすかに再生させてしまうという説が有力されているものである。同じようにブルー・スタンプKUM BACKのB面3曲目、「The Long And Winding Road」の直前でも聞き取ることができた。一方、レッド・スタンプKUM BACKでは「The Long And Winding Road」の直前でわずかに確認できたものの、A面の「Let It Be」では確認できなかった。

写真()は上段がレッド・スタンプKUM BACK、下段がブルー・スタンプKUM BACKの「The Long And Winding Road」で、ちょうど始まりの部分の波形。ブルー・スタンプKUM BACKのほうが出力は大きい。

写真(→)曲の始まる前の数秒間だけ波形を増幅させてみた。赤の棒が増幅させた範囲。上段のレッド・スタンプKUM BACKではわずかにプリ・エコー現象を聞き取ることができたが(青矢印)、下段のブルー・スタンプKUM BACKでははっきりと聞き取ることができる(赤矢印)。

 これは複数の「KUM BACK(ブルーとレッドの両方)で確認し、775ではセクション8でも紹介したTypeBでもそれは同様であった。また上記写真で示した通り、パソコン上で音楽編集アプリを使い、その部分を増幅させ、あらためて聞くとその結果は明らかだった。(なお、増幅させてもレッド・スタンプKUM BACKの「Let It Be」直前にプリ・エコー現象は認められなかった)

 ここから言えることは少なくともレッド・スタンプKUM BACKは775からコピーされたものではないということである。

 最初にレッド・スタンプKUM BACKがデトロイトで製造され、デトロイトからほど近いシカゴでは、簡単にレッド・スタンプ「KUM BACK」を入手できたはずだ。ブルー・スタンプKUM BACKのほうが若干ノイズが多いことを考えると、レッド・スタンプ「KUM BACK」からディスク・トゥ・レコードされブルー・スタンプKUM BACKが製造された可能性が極めて高い。

 ちなみに1970年6月13日付けのThe Charlotte News紙はシカゴの記者からの記事として「Beatles Still Alive? New Album Says Yes 」というタイトルの記事を掲載した。その中で記者はGet Back(Lemon Records)とGet Back And More(JSJ Records)と Kum Backを比較しレビューしている。残念ながらここで紹介されているKUM BACKは何を指すか詳しく書かれていないのでわからないのだが、前者2つのブートレッグはピッチコントロールが正しくないが、KUM BACKは録音ノイズ以外で悩まされることはないという表現で書かれている。ということは、このKUM BACKはブルー・スタンプ(775)を指していると思われる。

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