
ビートルズ・ブートレッグ55年目の真実
Review09 "Collector's Items" and "Casualties"
「Collector's Items と「Casualties」は今もって人気の高いブートレッグだが、リリースはCollector's Itemsの方が若干早く1979年の夏ごろであった。
正規盤と見間違えるようなジャケットやディスク・レーベルのつくりは、他のブートレッグとは明らかな差があった。どちらのブートレッグもテイク違い、バージョンの違いを集めた編集盤というコンセプトであった。
リリースの背景には1978年のUK盤及び、後のUS盤「Rarities」の影響があった。UK盤「Rarities」は本来1977年の「The Beatles Collection」というBOXセットにボーナスとしてついていたものだったが、アルバム未収録の曲や、UKでは未発売のテイク、バージョン違いなどの曲を収録していた。そして、1980年にはアメリカ・キャピトルから、US盤「Rarities」(日本では区別するために「Rarities Vol.2」のタイトル)がリリースされることになる。
「Collector's Items」は基本的にパイレート・ブートレッグだったが、その収録曲と内容はUS盤「Rarities」に酷似する点があった。例えばSide1、最初の曲である「Love Me Do」に関するバック・カバーに記載された注釈は、「サウンド・クオリティーは本来のマスター・テープからの収録ではない」という音質に関するものだが、US盤「Rarities」にも同等の意味ととれる注釈がついている。

写真はレアリティーズVol.2 (1980年)
バック・カバーにはLove Me Doの音質に関する注釈がついた。写真左下は同じように「Collector's Items」 のバック・カバーにある注釈
「Collector's Items」はUS盤「Rarities」リリースのおよそ半年も先にブラック・マーケットに出回っていたわけであるから、US盤「Rarities」のコンセプトや情報が流出し、ブートレッガーへとつながっていたのではないかという憶測が生まれた。
最初にリリースされた「Collector's Items」はSPRO-9462のナンバーがついている。プレス枚数は1000枚と言われており、どちらかというと少ないプレス枚数であるが、話によるとカバー制作にかなりのコストがかかったらしいので、採算上あまりプレス枚数を増やさなかったのかもしれない。
その後、BOXセットも作られたようだが極少数だったため市場に出回ることは無かった。1979年末頃にはセカンド・プレス盤がリリースされる。レコード・ナンバーはSPRO-9463となり、Side1、2曲目と3曲目が入れ代わり、最後の曲「I'm Down」が「Paperback Writer」に差し替えられた。こちらのセカンド・プレス盤は2000枚のプレスと言われている。

Collector’s Items 詳細→Col1/2 上段はSPRO-9462、下段はSPRO-9463
一方で「Casualties」は1980年秋頃のリリースで、最初のプレスはピクチャー・レコードだった。同じブートレッガーによるものと思われるが、このピクチャー・レコード盤はSEAX-11950という番号で、キャピトルが「Sgt.Peppers」と「Abbey Road」のピクチャー盤リリース使用された際のナンバーを使うという凝りようだった。同様にマトリックスもSEAX- 1-11950 / SEAX- 2-11950だった。
「Casualties」も基本的に、「Collector's Items」と同様にテイク違い、バージョンの違いを集めた編集盤であったが曲の一部にはFakeが含まれているとみる向きもある。
とはいえ、使用されたカバー写真は、US盤「Rarities」のカバー内側に使用された、いわゆる「ブッチャー・カバー」のオリジナルと同等のクロップされていないものが使われ、「Collector's Items」と並んでポピュラーなブートレッグとなった。

Casualties 詳細→Cas1/2 上段は最初のピクチャー・ディスク(SEAX-11950 )、下段は通常盤(SPRO-9469)
1981年には、カバーに入ったキャピトル・レーベルの通常盤がリリースされた。バック・カバーのデザインはUS盤「Rarities」そのものである。
1982年になると、これらオリジナル盤をもとに、別のブートレッガーが製作したコピー盤が現れる。それらコピー・ブートレッグは「Collector's Items」「Casualties」ともに、オリジナルより複写されたカバーで、青っぽく、ぼけている。ディスク・レーベルは単色でタイトル、番号等がスタンプ押しされているだけである。

「Collector's Items」のマトリックスは9463-A/B「Casualties」は9469-A/B、やはり音質はかなり劣ってしまっている。「Collector's Items」(Col3)のバック・カバーにはSPRO-9462とプリントされているが、実際にはSPRO-9463(Col2)の方からコピーされており、Side1の最後の曲はPaperback Writerになっている。
また「Casualties」は、オリジナルのCas1/2にはSide2 Let It Beの後にHello Goodbyeのエンディング・パートが収録されているが、Cas3の方にはHello Goodbyeが収録されていない。
そしてこれらコピー・ブートレッグはブラック盤の他にブルー・カラーのレコードもプレスされた。マトリックスと、レーベルは同じ。ブルー・カラー盤は1985年発売のビートルズ海賊盤事典には限定200枚と記載された。断言はできないが実際にその程度の少ないプレス枚数と思われる。

そのうち、それぞれ50枚には限定ナンバーがスタンプ押しされたカバー及びレコードが確認されている。これらは、また別のブートレッガーによってスタンプされたもので、その経緯は1995年に発行された「Black Market Beatles」に書かれてある。あるブートレッガーが販売を請け負ったブートレッガーからそれぞれ50枚ずつ買い取り、差別化を図るためコレクターの心理に便乗しスタンプしたもので、他のブルー・カラー盤と変わりはなく、決して最初の50枚という意味ではないのだが、実際そのブートレッガーも高値で売れたと語っている。

1983年には「Casualties」のピクチャー盤が再度発売になった。こちらはコピー盤のCasualties(Cas3)から複写しピクチャー・ディスクにしたもので、タイトルも半分入っている。マトリックスはCas3とそっくりであるものの、よく見ると微妙に異なっており、似せて書いたことがわかる。実際、音質はCas3からのコピーで良くない、Hello Goodbyeが収録されておらず、ピッチもはやい。
詳細→Cas6
1983年にプレスされた、Cas3からコピーしたピクチャー・ディスク。マトリックスはCas3とそっくりに書かれているが、実は異なる筆跡でCas3からさらに劣化した音質となっている。
1983年以降もこの2つの人気タイトルのコピー盤はたびたび作られ、オリジナル盤や希少性の高いブルー・カラー盤は今もって高値で売買される傾向にある。