ビートルズ・ブートレッグ55年目の真実

Review 04       Crazy Get Back   (Let It Be And 10 Other Songs )

 アルバム「Get Back」の発売中止後、「Let It Be」へとタイトルが変更になって、ジャケット写真も差し替えられるまでの短い間、「Get Back」で使用されるはずだった「EMIハウスのバルコニーで撮影された」カバー写真に「Let It Be」のタイトルがつけられていた時期があった。

 Mark Lewisohnの「全記録(1994年)、Chronicle(first edition 1992)」には「Let It be and 10 Other Songs」とタイトルされた白黒のジャケット写真とともに、「1970年3月のアルバム"Let It Be"の初版ジャケット構成刷り」との説明が付いてある。だが、フィル・スペクターが「Get Back」の作業を開始し始めたのは1970年3月23日とあり、その後4月2日「Let It Be」完成とある。そして文中には「アルバム同様、映画のタイトルもずっと"Get Back"のままで、"Let It Be"に変更されたのは1970年の春になってからだ。」とも書かれてある。結局のところ、この構成刷りの時期に関する詳細はすべてが明らかになっていないようだ。公式的には2000年に発売された「Anthology」にこのカラー写真が掲載された。

初めてこのカバー写真を再現したブートレッグ(LBO1)は1980年に日本で登場する。

写真上段は 詳細→LBO1  フロント、バック、ディスク・レーベル、マトリックス

写真下段は やはり日本で製作されたLBO01 からのコピー盤 詳細→LBO2  

 カバー写真は白黒ではあったが、ファンからは目を引くものがあった。マトリックス・ナンバーには「315」とあり、明らかに1970年代中期にWizardoによって作られた「Let It Be 315」を意識したものだった。このブートレッグは1980年9月から10月頃、新宿にあったレコード店で販売されるのだが、ほぼ同時期にアメリカ製の2枚組「Renaissance」(RENA1)も入荷・販売されている。

 「Renaissance」は1970年代に発売された、「Next-to-Last Recording Session - Fifth Amendment(ZAP 7866)」と「The E.M.I. Outakes」のオリジナル・スタンパーを使ったリイシューだったのであるが、ファンにとってはどちらも既に入手しているポピュラーなタイトルで、カバー写真が全く関係のない写真であることや2枚組であるが故、価格が高く、敬遠される対象であった。

 (LBO1)「Renaissance」 の「Get Back」音源を収録した1枚目だけをコピーし、写真は白黒ではあるものの、オリジナル・カバーを使用し、シングル・アルバムとして安価で販売したもので、ファン心理を読んだ製作者の意図は明らかに功を奏した結果となった。

 数年後、ヨーロッパ製の同タイトルのブートレッグが追随した(LBO4/5)。音は悪く LBO1 からのコピーであることから考えると、日本で製作された LBO1 が海外に渡り、さらにリアルなカラー写真での再現を試みたブートレッグであった。しかも、レーベルはアップル、ピーター・ブラウン署名のDJに宛てたペーパー・インサートが付属しており、レコード番号はJS 17499と本物の「Let It Be」の原盤番号JS17500の一つ前に設定しているという凝った内容であった。当時は、このアルバムに関する情報は皆無で、1985年の「ビートルズ海賊盤辞典」に掲載されてから、こぞってコレクターは探すようになった。

写真は西ドイツで製作されたと思われるLBO4

詳細→LBO4  

「Let It be and 10 Other Songs」をカラー・カバーで再現し、レーベルはアップル、ピーター・ブラウン署名のDJに宛てたペーパー・インサートが付属している

LBO1が日本で出回った数年後に製作されたと思われる

 この時、制作されたカラー写真は、よく見ると編集した跡や写真ノイズがあるが、実は後にも再使用されるカバー写真だった。というのも1984年に、やはり同じヨーロッパから「Get Back with Let It Be and 11 other songs」(TONTO TO643)がリリースされる。このブートレッグは、知らないファンはいないというくらいの名盤だが、実は、カバー写真はLBO4を複写し、編集したものだったのである。

 LOB4は西ドイツ製のようである。というのもLOB4/5のスタンパーは、あるイタリアのコレクターによってEbayに出品された経緯がある。その時Descriptionには「西ドイツ製スタンパー」との記述があった。TONTO TO643も西ドイツ製と言われている点からもその可能性は高い。

写真 右側がLBO1「Let It be and 10 Other Songs

左側が「Get Back with Let It Be and 11 other songs」(TONTO TO643) 

「LET IT BE」の「L」部分を「G」に編集した跡が確認できる。

 ところで話は変わり、1970年に製作された「Get Back」(GET01)について説明したい。実もこのアルバムも、今もってコレクターの間で人気が高い。

内容は、マトリックスが「S-1/2」のブートレッグで「KUM BACK」とタイトルされたり、「GET BACK」ともタイトルされたことのあるブートレッグが元の音源で、それよりコピーされたものだ。KB01KB02の「KUM BACK」とは異なり、S-1/2にはモノラルではあるが「One After 909」と「Dig It!」が収録されていた。音質は良好でその2曲以外はステレオでもあったが、全体的にややピッチが速いという欠点があった。このGET01ではそのピッチは補正され収録されたものの、残念ながらディスク・トゥ・レコードでコピーした際の多くのノイズを含んでいる。

 このブートレッグは1970年の春にアメリカ西海岸で製作され、1970年のRolling Stone誌、NO.60(6月11日)号にレビューされた。奇しくもその号では5月に発売されたばかりのアルバム「Let It Be」がレビューされており、このカバー写真は同ページに掲載された。このブートレッグはI.C Records名義で製作した最初のレコードと思われるが、主にI.C records は1971年に入ってから、ナンバーの冒頭がCBMRで始まるシリーズをリリースし続けた。

an Immaculate Conception (IC Records)による「Get Back」詳細→(GET01)

写真下はマトリックス(S-1/2)の「KUM BACK」だが、「GET BACK」などのタイトルもあり、様々な仕様で確認されている。右下はRolling Stone誌に掲載されたレビュー記事。

 この妊婦の写真のカバーを不思議に思う方も多いかもしれないが、I.Cは「Immaculate Conception」の略で、「無原罪懐胎」とか「無原罪の御宿り」と訳される。聖母マリアが原罪の汚れを免れていたとする信仰で、1854年にローマ教皇ピウス9世がそれを宣言し教義として明確に定まったという。このI.C Records の製作者はイタリア人でI.C Records以外でもFigaやCatso, Underground Sounds などのレーベル名を名乗りブートレッグを作ってきたが、1971年の夏ごろよりDittolino Disc レーベルを制作した。この時彼らは複数の別レーベルでプレスされた多くのスタンパーを入手し、自分たちのレーベルでリプレスした。ちなみにFigaやCatso、Dittolinoもイタリアのスラングらしい。

 さて、それから20年以上の月日が流れ、1990年代に入り、摩訶不思議なブートレッグが作られた。それがGET02である。GET01を持っている方ならばご存じかと思うが、GET01のフロント・スリックはぴったりと糊で張り付けてある。経年劣化により、そのスリックには「しわ」が寄ってくる。だが、このGET02のフロント・スリックは新品同様で、「しわ」はほとんど無い。当然、レコード・ディスク(レコードはGET01と同じディスクが入っている)も新品だった。おそらく、在庫のまま保管された状態だったのではないだろうか。そして裏側から「Let It be and 10 Other Songs」のカラー写真が張り付けてある。そのため、折り返しが四辺とも表側にある。背表紙(Spine)にはThe Beatles-Let It Beとプリントされている。驚いたことに、この写真はLBO4のものとは異なり、格段に綺麗に精巧に作られているのだ。

写真左 1990年代に制作されたGET02 裏側からカラーのLet It be and 10 Other Songs」が張り付けてある。写真下の左側は背表紙(spine)と表に折り返された部分。 写真右下からも分かるように精巧で鮮明な画像である。

 この写真とこのブートレッグを制作したブートレッガーについては全く不明だが、ある時に有名なアメリカのジュリアンズ・オークションに、このスリックのみ出品されたことがあるようだ、写真で見る限りこのGET02と非常に似ている。結局落札はされずに終わったようであるが詳しいことはわからない。このブートレッグを販売した、アメリカの某レコード・ショップ・オーナーは私の質問に「1990年代にほんの数回見たことがある」と答え、「It's Crazy」と付け加えた。私はこのブートを「Crazy Get Back」と呼ぶことにしている。今のところ「Crazy Get Back」は「Let It be and 10 Other Songs」の写真を再現し作られた最後のアナログ・ブートレッグである。

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