ビートルズ・ブートレッグ 55年目の真実

Review 03 : The Original Greatest Hits 

The Original Greatest Hits (OGH01~04)(この通し番号はこのウェブ・サイトの整理ナンバーです、レコード番号、マトリックス、トラックリストなどの詳細データはこちらを見てください。)

The Original Greatest Hitsは1964年に製造された最初のビートルズ・パイレート・ブートレッグとして知られている。当時ビートルズがアメリカを訪れた際、同行したマネージャーのブライアン・エプスタインの目に留まり激怒したというエピソードも残っている。

 1964年「Record World」誌の5月30日号と6月6日号にはThe Original Greatest Hitsに関する記事が掲載された。5月30日の記事ではキャピトル・レコードが最高裁判所に(場所はニューヨーク州となっている)Greatest Recordings, Inc.を相手に訴訟を起こし、判事はすでに市場から撤収するよう命じていること、またその偽造レコードは東海岸に限定され出回っているなどの情報が書かれている。さらに6月6日の記事ではキャピトル・レコードはGreatest Recordings, Inc.へThe Original Greatest Hitsの製造、販売、流通、取引を中止するよう合意を求めた事や、Greatest Recordings, Inc.はブルックリンに拠点を置く会社であるとの情報が書かれている。

この記事の内容のとおり当初The Original Greatest Hitsは、アメリカ東海岸という限定的なマーケットにおいて販売されていたようである。

 最初にプレスされたオリジナルのThe Original Greatest Hits(OGH01)と、その後、別にプレスされた「OGH02」には少し違いがある。マトリックスは一見すると同じように見えるが、よく見ると筆跡が異なっていることがわかる。事実「OGH02」の音質は明らかに「OGH01」からコピーされており、スクラッチ・ノイズが多い。

ディスク・レーベルにも違いがあり、「OGH01」はライト・イエローだが、「OGH02」はやや濃い目のイエローである。「OGH01」のレーベルの形状はセンター・ホールを中心として直径70mmの円形ステップが認められるが、ステップというほどの段差は無くどちらかというとフラットである。

上写真

上段はRecord World(1964年5月30日)の記事。タイトルは「Cap Cries Counterfeit」。

下段はRecord World(1964年6月6日)の表紙と記事。タイトルは「Counterfeiting : Capitol Gets Stipulation」。



上段: OGH01 →詳細データ

下段: OGH02 →詳細データ

下写真の背表紙(Spine)はOGH02のもの。OGH01の背部分には何もプリントされていない。










上段の3枚の写真はOGH01のマトリックス、下段はOGH02のもので、筆跡が異なっていることがわかる。

「OGH02」では直径72mmの円形が認められるが、こちらは明らかな段差があり、よく見るとステップが2段になっている部分もあり、いわゆる深い溝になっているタイプのレーベル形状とは異なる。

ジャケットについては背表紙(Spine)に大きな違いがある。「OGH01」には何も書かれていないが、「OGH02」はレコード番号、タイトル、社名がプリントされている。ところがフロント及びバック・カバーには違いが区別できず、「OGH02」のものが「OGH01」から複写されたとは思えない。

さらにもう一つ、いつ頃プレスされたものかまったく不明の、ディスク・レーベルがゴールドでプレスされた「OGH03」がある。マトリックスは「OGH02」と同一であり、「OGH02」のリイシューといえるかもしれない。そしてディスク・レーベル同様にカバーにも大きな特徴がある。ジャケットのつくりは他とは少しちがい、バック・カバーは他と同様だがフロントはちょうどジャケット大スリックが貼り付けてあり、折り返しのない装丁となっている。そしてフロント・カバーには印刷した会社のロゴマークがプリントされている。次の写真でMIC・TONEというロゴが印刷されているのがわかる。



上段: 右写真はOGH01のレーベル、ステップはあるがほとんどフラット。左写真はOGH02のレーベル、深溝ではなくよく見ると2段のステップとなっている。

下段: OGH03 →詳細データ

下段右の写真はフロント・カバー右下の印刷会社のロゴマーク。


1964年のThe Original Greatest Hitsの発売から数年が経ち、別のThe Original Greatest Hits(OGH04)が発売された。会社名はSUTA Records である。A面の最初にStrawberry Fields Foreverが収録されたがそれ以外のソング・オーダーはほとんど1964年のThe Original Greatest Hitsと同じである。「OGH01」では4人を象徴するヘアースタイルのイラストだけで「THE BEATLES」とのクレジットはなかったが、こちらには「The Original Greatest Hits By THE BEATLES」とタイトルされている。レッド地のレーベルはOGH01と同じほぼフラットな直径70mmの円形ステップがある形状である。

SUTA RecordsによるThe Original Greatest Hitsの発売時期は1967年で間違いなさそうである。ノースカロライナ州グリーンズボロで発行されていた「News and Record」誌の1967年8月20日付けの記事にこのSUTA Recordsによる「The Original Greatest Hits」(OGH04)が取り上げられているのである。この記事によるとキャピトルの広報担当者は東海岸のブートレッガーによるものと考えておりさらに調査を進めると答えたという。

キャピトルはそれなりの対応をしていたようだが、Greatest Records盤とSUTA Records盤、どちらとも1970年代中盤頃までプレスされ続けた形跡がある。


OGH04 →詳細データ

下段はOGH04のマトリックスと

カナダで発行されている新聞「Financial Post」の1974年の1月12日付の記事。記事のタイトルは「Record, tape pirates loot the Canadian market of millions」(「カナダ・マーケットにおける何百万ものレコード、テープが海賊版によって荒らされている」)

1973年7月号の音楽専科に香月利一氏によるビートルズのブートレッグ・レビューが特集された(タイトルは「ビートルズ・ブートレッグ・ディスコグラフィー」)。

この記事の中ではThe Original Greatest Hitsは紹介されていないが、この号の音楽専科には、2つのThe Original Greatest Hitsを販売するレコード・ショップの広告が掲載されている。この時の入荷したThe Original Greatest Hitsが初めての日本への入荷であったかどうかは定かではないが、その1年後の1974年6月号ではビートルズ・ブートレッグ・ディスコグラフィー(新編集版)が掲載され、SUTA Records盤が紹介された。おそらく日本でこのレコードがレビューされたのはこれが初めてであろう。その記事中には収録されている「Love Me Do」がリンゴによるドラムのバージョンであることが指摘されており、「イギリスで発売されたシングルに収録された」と説明している。はたしてこのブートレッガーはそれを知ってこのテイクを入れたのだろうか?

その後、このテイクはイギリスで発売されたシングルのみならず、カナダで発売されたシングル盤もこのテイクだったことが認知されるようになったのだが、この事実は「The Original Greatest Hits」制作のキー・ポイントになり得るかもしれない。 

というのもこの頃、日本だけではなくカナダでもSUTA Records盤は出回っており、カナダで発行されている新聞「Financial Post」の1974年の1月12日付の記事には興味深い内容が掲載されているからだ。 

「Record, tape pirates loot the Canadian market of millions」(「カナダ・マーケットにおける何百万ものレコード、テープが海賊版によって荒らされている」)と題され、その記事の中でSUTA records による「The Original Greatest Hits」を紹介しているのである。まず最近になってSUTA Records盤が値下がりしたことを伝えており、「Financial Post」の記者は「The Original Greatest Hits」の輸入元となっているMillbank社のゼネラル・マネージャーがレコードの在庫をキャピトル・レコードからの要請により供給元となっているアメリカへ送り返したと語った事実を書いている。ただ、そのゼネラル・マネージャーが言うには「SUTAレーベルは海賊盤ではないと認識している」とのことなのである。さらにセールス・マネージャーのコメントも載っているのだが、その内容は驚くべきものだった。

セールス・マネージャーは以前トロントにあるQuality Records社で働いており、その時にQuality RecordsによってSUTAレーベルは作られたのだというのである。記者はQuality Recordsにも事実を問い合わせたようであるが、Quality Recordsは「SUTAなど聞いたことがない」と答えたという。

さてこの記事中の話はどこからどこまでが真実なのだろうか?

この記事の証言からすると、レコードの供給元はあくまでアメリカとなっている。しかしレーベルはQuality Recordsがあるカナダのトロントであるというのだ。つまり企画などはカナダであった可能性を示唆している。

ここで「Love Me Do」のリンゴがドラムをたたくテイクが使用された話に戻りMillbank社のセールス・マネージャーの証言と関連性があるか考えてみると、仮にこのセールス・マネージャーの言うことすべてが額面通り事実ではなくとも、関係者によってカナダで企画され、マスター・テープもカナダで作られた可能性がある。となると、「Love Me Do」はカナダのシングル盤からパイレートされていてもおかしくはない。それがブルックリンのブートレッガーへ送られて、プレスされ、そこが配給元となったのではないだろうか。

実は1964年のGreatest Recordsによる「OGH01」からコピーされている音質の「ORIG02」と「OGH03」そしてSUTA Recordsによる「OGH04」まで同一のブルックリンのブートレッガーによるものと考えられる節がある。

前述の「Record World」誌の内容から「OGH01」のGreatest Recordsはブルックリンにあったとのことだった。そして「OGH02」とマトリックスが同一である「OGH03」のカバーに印刷されてあるロゴは「Mic-Tone」社のもので、「Mic-Tone」社はやはりブルックリンにある印刷会社なのだ。

これらの事実に加えて、1967年に発売された「Daniel Santos con Sonora Matancera」というラテン・グループの「Un Brindis Musical」というアルバムを参考資料として紹介したい。(これはブートレッグではなく正規レコードである)

右上写真: 1967年に発売された「Daniel Santos con Sonora Matancera」の「Un Brindis Musical」という正規レコード。下段右写真では「Mic・Tone」のロゴがプリントされている。左写真ではSEECOレーベルのロゴ・プリント。

左上写真: 2種類のSEECOレーベル。右側のゴールド・レーベルの拡大が下段の写真。ステップが2段。ブルー地にシルバーでプリントされている左側のレーベルはほとんどフラットなステップ。

このレコードカバーには「ORIG03」同様、Mic・Toneのロゴがプリントされている。つまりはブルックリンで印刷されたカバーであるということになる。レーベルはSEECOというラテン音楽を古くからリリースしてきたレーベルで、ニューヨークに本社がある。詳しい説明は省くがマトリックスからラッカー盤の制作はブロンクスにあるAudio Matrix社であることがわかっている。プレス工場まではわからなかったが、本社がニューヨーク、カバーがブルックリン、そしてラッカー盤がブロンクスとなると、当然どちらかの都市か、近くに位置するプレス工場で行われたと思われる。

このレコードタイトルには2種類のレーベルがある。どちらが初版であるとか、リイシューであるとかまではわからないが、色違いで2種類存在している。

 ブルー地にシルバーで印刷されているほうはセンター・ホールを中心に直径70mmの位置に円形のステップがあるが、そのステップはほとんど段差のないタイプ。つまり「OGH01」及び「OGH04」と全く同じである。ゴールドにブラックで印刷されているのレーベル の円形ステップの直径は72mmで溝タイプではない2段ステップタイプ。つまりは「OGH02」及び「OGH03」と同じである。

 ジャケットに関し追加説明をすると「OGH03」の貼り付けタイプを除きThe Original Greatest Hitsのジャケットとこの参考アルバム「Un Brindis Musical」は同一の装丁、紙質である。特に内面の紙質は特徴的でよく見ると、波打つような凹凸がある。



右写真はOGH01のカバー内側。左写真はOGH04のカバー内側。

 以上のことからこれらのレコードは、すべてブルックリン、あるいはその近辺で製作された可能性は高く、「OGH01」から「OGH04」までのブートレッグも同一のブートレッガーであることも考えられる。となると「Financial Post」の記事中にあるアメリカの配給元とはブルックリンのことで、最初のThe Original Greatest Hitsを製造したブートレッガーがそのままプレスし続けたか、仮に「OGH02」及び「OGH03」が別ブートレッガーだとしても、やはりブルックリンかその近郊に活動拠点があったはずである。

 「ブルックリンとブロンクスのプレス」と言えば、1970年から東海岸で台頭するWCFが頭に浮かぶ。Black Market Beatles(Jim Berkenstat著・1995年)には、あるブートレッガーの「ブルックリンとブロンクスのプレス工場を使用していたブートレッガー」の証言が書かれているがそれはおそらく「WCF」を指していると思われるからである。確かにThe Original Greatest Hitsと今回紹介したレコードのレーベル・デザインはWCFが後に製造した大量のブートレッグのレーベルと酷似しているように思える。

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