
ビートルズ・ブートレッグ55年目の真実
Review 11 Posters, Incense, and Strobe Candles
既にこのブートレッグについては、ストーリーズ1における「Section 1 (セクション1 ) ブートレッグ・ヒストリーの中の「KUM BACK」」でも触れたことがあるが、改めてこのリリース内容を紹介してみたい。
「Posters, Incence, and Strobe Candles」は1969年9月22日にボストンのWBCNというFM放送局が放送した内容を、放送用マスターより制作したものである。当時この放送を受信し、1970年初頭に製作されたブートレッグが「KUM BACK」であり、ビートルズ初の未発表音源を収録したブートレッグだった。

詳細→KB018
←写真 最初にアナログ盤で発売された「Posters, Incence, and Strobe Candles」の基本仕様。
パープル・カラーのディスク、同封のライナー・ノーツにはDJの語りと放送の進行表、曲目がプリントされている。
アナログ盤「Posters, Incence, and Strobe Candles」が発売された、1993年当時に至るまでの経緯を知らない方には、想像しづらいかもしれないが、1970年初頭に製作されたステレオ「KUM BACK」(詳細→KB01/KB02)はまだ知られた存在ではなく、売る側も買う側も、この音源が過去のどういったアナログ・ブートレッグと紐づいていたのかはっきり分かっていなかったのである。
西暦2000年代に入って、ステレオ「KUM BACK」というブートレッグの存在が認知されてから、この「Posters, Incence, and Strobe Candles」は再認識・再評価されるようになり、さらにはバック・カバーに書かれた説明の中にある「O.P.D.」というブートレッグの存在にも注目が集まるようになっていった。
「Posters, Incence, and Strobe Candles」を制作した、Vigotoneはこの時点で「Nothing But Aging」や「Arrive Without Travelling」といったタイトルのアナログ・ブートレッグを既にリリースしていたが、以降、ブートレッグCD全盛の時代に入ると、「Get back Journals(8CD)」など数々のブートレッグCDを輩出し、「Spank」などの別名レーベルなどとともに、世界中に知られる人気のレーベルとなった。
アナログ盤「Posters, Incence, and Strobe Candles」 の発売からおよそ一か月後の、1993年8月にはCDが発売された。

←写真 レコードは透明ビニールの中に、お香とともに入っており、その上にステッカーが貼られていた。しかしそのビニールは日本製だった(下記参照)
お香が入っているパッケージのラベルはグリーン、イエロー、レッドがある
大型のポスターは1988年に正方形の大型封筒に入ったアルバム「GET BACK WITH DON'T LET ME DOWN AND 9 OTHER SONGS」に同封されていたものと同じである
アナログ盤及びCD、共に、この発売は明らかに日本のコレクターをターゲットにしていたようで、日本での販売は独自の企画であったようである。
アナログ・レコードを取り扱った店舗では、3種類に分けて販売されていた。①大型ポスターとお香がついたもの、②お香のみがついたもの、③付属は何もないもの、といった具合に、まるでグレードを3種類に分け、金額も違い、①が最も高い設定で、それぞれ500円くらいの差で価格設定されていた。こうした販売の仕方は日本だけだった。
取り扱ったショップの中には、①が1stプレス、②が2ndプレス、③が3rdプレスといった具合に表記するところもあった。そもそも1stから3rdまでが同時販売されていること自体おかしなことであったのだが、販売店側がそういった強気で無茶なセールスができたことは、当時のブートレッグ・マーケットとしての日本が、格好のターゲットであったことの証であろう。
レコードと付属品は1枚のシール付きビニールの中に入っており、そこには「CONTAINTS BOUNUS INCENCE AVAILABLE IN 150 COPIES ONLY, MAN」とプリントされたシールが貼られていた。その透明ビニールは明らかに日本製であり、これらのパッケージは日本で行われたことを物語っていた。つまり、輸入されたレコードと付属品を、日本で3通りにパッケージして上記のように販売したのであろう。

←写真 透明ビニールに貼られたステッカーには、お香が入っているセットは150セット限定とあるが・・・?
また、透明ビニールは日本製だった(写真右)
上記①と②のセット両方に、全く同じこのシールが貼られており、このシールに書かれている「お香が付属したセットは限定150セット」という文言通り受け取るには大きな疑問がある。
実は海外のサイトで「Vigotone.com」というウェブ・サイトが2001年から2018年頃まで存在した。かなり凝ったサイトでVigotoneリリースの作品を紹介していた。

←写真 2018年頃まで存在していた「Vigotone.com」というサイト。PC画面でキャプチャーしたもの。
Vigotone.comではお香付きは300セット存在し、その中の150セットに大型ポスターがついていたと解説している
当然ながらCD(VIGO 109)も紹介されていたが、日本仕様の2枚組CDは掲載されていなかった。
ちなみにそのVigotone.comではお香付きは300セット存在し、その中の150セットに大型ポスターがついていたと解説している。この説明も本当かどうか疑問であるが、やはりシールに印刷されている「お香の付属は150セット」という文言とは異なっている。いずれにせよ、制作側と、実際にパッケージし、販売した側では認識の違いがあり、実際、これらセットは相当な数ではなかったかと思われるのだ。
さて、その1か月後の1993年8月にCDが販売されるのだが、ここでもはやはり、日本のコレクター向けの販売方法があった。
CDを取り扱ったショップによってそのCDのタイプは異なっていた。ほとんどは1枚もののCDであったが、ある限られたショップでは2枚組のタイプで売られていたのである。

←写真 Gold Wax No.22 (1993年、8月20日発行)に掲載された広告
あるショップの「Posters, Incence, and Strobe Candles」は1枚もののCD(写真上)だが、別の広告(写真下)では2枚組(2CD)となっている
同じ雑誌の中で、1枚で売るショップと2枚組で売るショップがあったのだが、それもそれぞれ複数掲載されている
ではこれらのCDにどんな違いがあるのか説明していきたい。
下記写真の1枚もののCDとは、Vigotoneが正式に制作したオリジナルCDで、「VIGO 109」のナンバーが付いている。この「VIGO 109」にはアナログ盤では収録しきれなかった、DJのアナウンスや、広告などが含まれており、トータル約68分の最も収録時間が長く最高の音質で収録されていた。(ちなみにアナログ盤はトータル約46分である。)
この「VIGO 109」は海外においても共通で同じものが販売された。

← 写真「VIGO 109 」
CDナンバーは「VIGO 109」初版はプレスCD
アナログ盤よりも収録時間は長く、トータル約68分である。アナログ盤では収録しきれなかった部分の放送内容を含んでいる。
写真下、右側は後に出たCD-R盤
CD-R盤は中央部に「MITSUI CD-R」とプリントされている

← 写真 日本で発売された2枚組CD
左上:VTCD-70A 右上:VTPRO-1
写真下段左は、VTCD-70Aのバック、上記「VIGO 109 」とは少々デザインが異なる
また、このCDにはDJの声をカットした12曲分のトラックしかなく、厳密にはバック・カバーの表記とは異なる
右上「VTPRO-1」についてはその説明など何もプリントされたものは無い。25トラック収録されており、そのトラック23までは、アナログ盤に使用されたマスターと同様である
それに対し日本製の2枚組CD(写真上)には、CDナンバー「VTCD-70」と「VTPRO-1」の2枚のセットとなっていて、まず、「VTCD-70」には12トラックの収録、それらはDJの声を極力カットした曲のみの構成となっているのだが、残念なことに今回紹介した中では最も音質が良くないかもしれない。ひょっとすると、アナログからのコピーの可能性もある。
もう1枚のCD「VTPRO-1」には25トラック収録されており、Track1からTrack23まではアナログ盤と同じマスターのトータル約46分収録されており、こちらは「VIGO109」と比べるとやや高音が強調されたマスタリングであるものの、やはり音質は最高である、そしてなぜか、最後のTrack24と25にはGet Back Session(おそらく「Get back Journals」に収録されているテイクであると思われる)から「One After 909」と「Two Of Us」がモノラルで収録されている。


↑写真 日本でパッケージされたBOXセット(詳細→KB019)
アナログ盤は、お香がついているタイプ
CDは日本仕様の「VTCD-70A」と「VTPRO-1」の2枚組CDセット
←写真 さらに加えて、「Arrive Without Aging」(VT-6869)が付属している
さて、最後に紹介するのが(↑上写真)CDとアナログ盤からなるBOXセットである。(詳細→KB019)
このBOXセットに入っているアナログ盤は、先に紹介した②のお香がついているタイプで、ポスターは付属していない。
CDは日本仕様の2枚組CDで、「VTCD-70A」と「VTPRO-1」のセットである。さらに加えて、「Arrive Without Aging」(VT-6869)のCDが付属している。一見するとデラックスなBOXセットと思われる方もいるかもしれないが、「BOXセット」という付加価値をつけて、手っ取り早く 売れ残った在庫をまとめてパッケージしたともとれるのだが・・・
日本におけるこれらの販売は、少しばかり過剰とも思える部分はあるものの、「Posters, Incence, and Strobe Candles」という収録音源は歴史的価値があるもので、ブートレッグに興味がないファンにとっても見逃せないアイテムであろう。
最後になるが、Yellow Dogが制作した、基本的には同一の収録内容のCD「WBCN Get Back Reference Acetate」(YD035)との違いについて少し触れたいと思う。このソースではアセテート盤からのパートになると、必然的にかなりスクラッチ・ノイズを拾っているが、「WBCN Get Back Reference Acetate」(YD035)では見事なまでにそれらノイズを消したマスタリングとなっており、それでいて音質は「Posters, Incence, and Strobe Candles」と同等である。
どちらが良いのかと問わるれと、両者の音は優劣つけ難い。これは好みの問題であろう。
ちなみに私は、アセテート盤というものは普通にノイズが発生するものという認識なので、「Posters, Incence, and Strobe Candles」の音のほうがむしろ自然に聞こえ、違和感なく受け入れることができる。