
ビートルズ・ブートレッグ 55年目の真実
STORIES 2-3
Dittolinoの台頭 SHEA THE GOOD OLD DAYS / LAST LIVE SHOW
(HOLLYWOOD BOWL LIVE / Phase 3)
1971年の春以降、Kustom Rekordsによって制作されたスタンパー「SHEA-1/2」はDittolinoへと引き継がれることになる。(参照→ Hollywood Bowl Phase 1, Hollywood Bowl Phase 2)
実はこの年、西海岸では大きな動きがあった。複数のブートレッガーが使用していたスタンパーや多くのタイトルがDittolinoの手に渡る。そしてそれらは、そのまま新しいカバーで市場に出回ったものもあれば、コピーされ新たなスタンパーが作られたもの、あるいはDittolino 名義のカバーでリイシューされたものなど、パターンは様々だった。
実は、Dittolinoだけではなく、近しいブートレッガーもそれらにアクセスできたようだ、タイトルによっては複数回の別プレスがあったため、より複雑にブートレッグが乱発される事態を招いた。
例えばBeatlesのタイトルでDittolinoへと引き継がれたものは、Kustom Rekordsの「Live At Shea(The only live recording)HOL004・HOL005」が代表例だが、他にはLemon Recordsによる「Get Back 」があった、しかしこれらは氷山の一角にすぎず、他のアーティストによるタイトルでも多数見つかっている。
(詳細 → Data Reference In 1971, A lot of stampers moved to "Dittolino")

写真上段はLEMON Recordsによる「Get Back」、1970年3月のリリース
写真下段は、後に同じスタンパーを使用し、Dittolino によってリプレスされた「Get Back Session」
ここでは下記のマトリックスに関係する「Shea The Good Old days」と「Last Live Show」について、時系列に並べ整理してみた。(一部不明な点もあり、推測の域を出ない部分もある)
Matrix Ⅰtype 「SHEA-1/2」 (完全SHEA-1/2型)
Matrix Ⅱ type 「SHEA-1/2 △ S-2531/2」 (完全S-ナンバー型)
Matrix Ⅲ Mixed type 1 「SHEA-1 / SHEA-2 △ S-2532」(混合1型)
Matrix Ⅲ Mixed type 2 「 SHEA-1 △ S-2531 / SHEA-2」(混合2型)
今回カテゴライズするブートレッグは上記いずれかのマトリックスのみで、すでにlivedoor-Blogへエントリーされているタイトルである。(***)内のナンバーがリンクになっている。また、文章中に(※Note)とマークした箇所が3か所ある、それらについては文章の最後にその意味を記した。
Period Ⅰ 時期: 1971年春頃
「『Shea The Good Old days』というタイトルでのリリース」
Kustom Records盤「Live
At The Shea」は1971年春頃までUKで販売されていた。そして、「SHEA-1/2」をもとに「SHEA-1/2 △ S-2531/2」のスタンパーが6~7月に制作されたことを鑑みると、Kustom Recordsから出荷があった後、わりとすぐに、プレスされた在庫分レコードと、オリジナル・スタンパーである「SHEA-1/2」が別のブートレッガーの手に渡ったと思われる。それはDittolinoの可能性は高いが、複数のブートレッガーが関係していたとも考えられる。
その時、ブートレッガーはあるブートレッグをヒントにして(※Note1)「Shea The Good Old days」のカバー・スリックを制作し、最初に、既にプレスされてあったKustom Rekordsレーベルの「SHEA-1/2」のレコードを入れて市場に出した。もとのKustom Records 盤を使用しているので、マトリックスは当然、 Matrix Ⅰtype 「SHEA-1/2」 (完全SHEA-1/2型)であり、それが1971年3~5月までの間ということになる。

詳細→(HOL009/10) カバー・タイトルは「Shea The Good Old days」となり、ディスク・レーベルは従来のKustom Rekords、マトリックスはMatrix Ⅰtype 「SHEA-1/2」
Period Ⅱ 時期: 1971年6月から7月
「SHEA-1/2」からコピーし新たなスタンパー「SHEA-1/2 △ S-2531/2」を作りプレスした」Dittolinoか、あるいは近しいブートレッガーは「SHEA-1/2」からコピーした新たなスタンパーを作る それが Matrix Ⅱ type 「SHEA-1/2 △ S-2531/2」 (完全S-ナンバー型) であり、その時期は 推定1971年6月か7月(※Note2)だった。
その時、新たにPINE TREE RECORDSレーベルを作り、レーベルには「Shea The Good Old days」というタイトルを入れ、Kustom Rekordsの時は正確ではなかった曲名を修正し、新たなソング・リストをレーベルにプリントした。
新しいスタンパーを作る場合、前のスタンパーが限界となったか、問題が生じたためのことが多いが、「SHEA-1/2」のスタンパーがこの後も長く使用された結果を考えると、量産することが目的の追加制作したスタンパーだったということになる。
つまり、新しいスタンパーと同時に、別のプレス機では引き継いだ従来の「SHEA-1/2」のスタンパーでもプレスできた。

Period Ⅲ 1971年秋頃
「彼らはDittolinoを名乗り『Last Live Show』という名前にした」
Dittolinoはあるブートレッグを参考にして(※Note3)Last Live Showというタイトルにし、カバー・スリックにもDittolio Discという社名を入れた。フロント・スリック・カバーには「0009」とナンバリングされた。「0001」は「As Sweet As You Are(D-1 A/B)」につけられたナンバーであるが、「As Sweet As You Are 」のリリース時期は、1971年9月の「Yellow Matter Custard(TMOQ・BBL-513 A/B)」の後であるため、(HOL13/14)に使用されたスリックもそれ以降となり、およそ1971年秋頃と結論付けた。 (HOL013/14)

写真上:14 Unreleased Songs As Sweet As You Areは「0001」でナンバリングされている。
写真右:詳細→(HOL013/14)
カバー・タイトルは「Last Live Show」「0009」で、ナンバリング、ディスク・レーベルはPine Tree Records、マトリックス:Matrix Ⅰtype 「SHEA-1/2」

ただ、(HOL013/14) のように「SHEA-1/2」マトリックスで、PINE TREE RECORDSレーベルが貼られたレコード盤が出てくるのは、前のPeriod Ⅱでプレスされたものが残っていたため、最初の出荷ではそれを入れた可能性が高い。
ほぼ同時に、Dittolinoレーベル、あるいはA/Bとプリントされたレーベルも使用したのだろう。スタンパーは同じMatrix Ⅰtype 「SHEA-1/2」 (完全SHEA-1/2型)を使用した。
(HOL24)のスタンプ・カバーに関して推測すると、ブートレッガーにとって、ゴム・スタンプはロー・コストで、手っ取り早い。おそらくは印刷した「Last Live Show」のスリックが足りなくなり、ごく少数のレコード盤に対しスタンプ・カバーを用意したと考える。


写真上左:詳細→(HOL015/16) カバーは「Last Live Show」ディスク・レーベルは基本的にDittolino Discの標準レーベル、時にA/Bと大きくプリントされたものも使用しているのがDittolinoの特徴。マトリックス:Matrix Ⅰtype 「SHEA-1/2」
写真上右:詳細→(HOL024) カバーは「Last Live Show」と黒でスタンプ。ディスク・レーベルはDittolino Discの標準レーベル。マトリックス:Matrix Ⅰtype 「SHEA-1/2」
Period Ⅳ 1971年末から1972年初頭のプレス
「HHは500枚オーバー・プレスしそれらはWizardoの手に渡った」
これは(HOL022/ HOL023)にリストした「'Get Yer Yeah - Yeah's Out' Live At The Hollywood Bowl 7-24-64」から逆考察した結果となる。おもに2020年のWizardoインタビューの内容から、HOL022/023は1972年前半の製作と推定され、前提としてHH(詳細 → Data Reference In 1971, A lot of stampers moved to "Dittolino")がオーバープレスした500枚の「Shea The Good Old days」が1971年末から1972年初頭であれば矛盾は起きないからである。
大きな手掛かりとなったのは、Wizardoの友人がカバー制作を手伝った話に加え 、その友人とある日、ハリウッドを歩いていた時に、ミック・ジャガーと会い、その時が「Exile on Main Street」のオーバー・ダブ等、ロスにあるスタジオでのレコーディング時期であったと考えられるからである。Wizardoはインタビューの中で「5月だった」と語っているが、それは勘違いだろう。「Exile on Main Street」の発売が1972年5月で、ロスのスタジオ・レコーディングは1月10日 – 3月25日 に行っていたことがわかっている。(詳細はHollywood Bowl Phase 4の中に記載予定)
また、HHが500枚オーバー・プレスしたということは、実際にHHがオーダーしたプレス枚数は、その数倍であろう。そして、2種類の「'Get Yer Yeah - Yeah's Out' Live At The Hollywood Bowl 7-24-64」の中に入っていたレコードはMatrix Ⅰtype 「SHEA-1/2」 とMatrix Ⅲ Mixed type 1だった。といったことを考えると、プレスは複数回にわたり、Matrix Ⅰtype 「SHEA-1/2」 (完全SHEA-1/2型)および、同時にMatrix Ⅲ Mixed type 1と2を使用したと思われる。彼らはMatrix Ⅰtype とMatrix Ⅱ typeをミックスして使用したということは、「どちらも同じもの」という認識であった可能性が高い。
使われたカバーは再度「Shea the good old days」のカバーが使用されている。なぜなら、オーダーしたのはHHであり、Dittolinoではなかったからであろう。


写真上左:詳細→(HOL011) カバーは「Shea The Good Old days」、ディスク・レーベルはDittolino Discの標準レーベル、マトリックス:Matrix Ⅰtype 「SHEA-1/2」
写真上右:詳細→(HOL019/20)カバーは「Shea The Good Old days」、ディスク・レーベルはDittolino Discの標準レーベルか、この頃から使用されるようになったsmall 1/2 レーベル、 マトリックス:Matrix Ⅲ Mixed type 1 「SHEA-1 / SHEA-2 △ S-2532」(混合1型)
写真下:詳細→(HOL021) カバーは「Shea The Good Old days」、ディスク・レーベルはsmall 1/2 レーベル、 マトリックス:Matrix Ⅲ Mixed type 2 「 SHEA-1 △ S-2531 / SHEA-2」(混合2型)

Period Ⅴ 1972年初頭以降のプレス
「さらに別ブートレッガーの手に渡る」
Dittolinoは1972年になっても活動は続いていたが、1973年までには、その活動を止めることになる。
Dittolinoが所有していた大量のスタンパーはWizardoグループの手に渡り、リイシューされる。 Matrix Ⅰtype 「SHEA-1/2」 (完全SHEA-1/2型)はGLCレーベルからリイシューされる。(詳細→HOL026/27)ただその時期は断言できず、1973年~1975年末までと思われる。 また一方で、Matrix Ⅱ type 「SHEA-1/2 △ S-2531/2」 (完全S-ナンバー型) は1976年初頭のKOレーベルに使用された他、Vicky VinylによるIdle Mind Productionレーベルでのプレスに使用された。このLarge1/2レーベルは、やはり、Dittolinoではなく1973年~1975年末の間に、Wizardoグループの誰かか、DittolinoやWizardoに近しい位置にいたブートレッガーによってプレスされたと思われる。1970年代後半に作られたコピー盤「Shea The Good Old days」(HOL028)はこの(HOL018)を模倣し制作したと考えられる。

写真左:詳細→(HOL018) カバーは「Shea The Good Old days」、ディスク・レーベルはLarge 1/2 レーベル、 マトリックス:Matrix Ⅱ type 「SHEA-1/2 △ S-2531/2」 (完全S-ナンバー型)
Large 1/2 レーベルは主に、古くはHHのブートレッグで使用されていた、70年代中期ではPig’s EyeなどでTMOQのD氏やWizardoグループではVicky Vinylも使用していた。
「Shea The Good Old days」をレビューした新聞記事」
では最後に、1972年に「Shea The Good Old Days」をレビューした新聞記事を紹介したい。インディアナ州 ヴィンセンスで発行されている「The Vincennes Sun Commercial 」1972年2月25日付掲載の「Old Post Platter Pics」とタイトルされた記事では、最高のライブ・レコーディングのひとつと評し、機会あれば購入すべきだとも書いている。

この記事の最大のポイントは、タイトルの通り「Old Post Platter Pics(過去に投稿されたレコード評)」という点である。同時に紹介されているのが「Syd Barrett / The Madcap Laughs(UK, 1970)」(アメリカでの発売は1974年)と「Bob Dylan's Greatest Hits Volume II(Nov, 1971)」であることからも「Shea The Good Old Days」が最も多く出回ったのは1971年であったことは間違いないであろう。
(※Noteについて:これら3箇所は重要なポイントではあるが、今回はエビデンスを示さなかった。その理由だが、実はこれらをもとに、異なるタイトルで、別の「Stories」を書く予定なのである。しばらくは時間がかかるとは思うが・・・乞うご期待!)