ビートルズ・ブートレッグ 55年目の真実

STORIES 1

最初に出現したビートルズ・ブートレッグ『KUM BACK』と『O.P.D.』について


イントロダクション

グレート・ホワイト・ワンダー(Bob Dylan / Great White Wonder)が1969年に作られてから55年が経った。このグレート・ホワイト・ワンダー以降、ポピュラー音楽シーンにおける「海賊盤」の性質は変わった。それまではイミテーションやパイレート盤などが主流であり、ビートルズの「The Original Greatest Hits」(1964年)はパイレート盤の代表例であった。しかしグレート・ホワイト・ワンダー以降のブートレッグは従来の「本物のように作られているもの」とは異なりまったく違う価値観をもっていた。そこには「聞いたことがない(知らない)音を聞く」ことによって驚きと発見を見出すことができた。音質が悪く完成度が低いものであったとしても、それがお気に入りのアーティストのものであればあるほどファンの興味を駆りたたせていった。

そして70年代、ブートレッグは大ブームを巻き起こし、ビッグ・ビジネスになっていった。



写真右 Bob Dylan  /  Great White Wonder

写真左 The Original Greatest Hits               

Section 1   (セクション1 ) ブートレッグ・ヒストリーの中の「KUM BACK」

 ブートレッグ・ヒストリーの中において、以前より「KUM BACK」はビートルズ初のブートレッグとして知られていた。それは既発音源のパイレートではない、いわゆる未発表テイクや未発表曲を収録したブートレッグという意味においてである。70年代と80年代、ありとあらゆるブートレッグの紹介の中で「KUM BACK」はそう紹介されてきた。しかし「KUM BACK」とタイトルするブートレッグはあまりにも多く、ファンは混乱してしまいがちだった。というのも70年代においては多くのコピー・ブートレッグが作られたからである。1970年に作られたWorld's Greatest盤に始まり、WCF盤やCBM盤はその典型だった。しかもオリジナル盤であるステレオ「KUM BACK」に関する正確な情報は、70年代と80年代においては全くと言っていいほど伝わっていなかった。

 今までKUM BACKはどのように紹介されてきたのか、簡単にこの50数年間の経過を振り返えってみたい。

 70年代カナダで発行されていたブートレッグのレビュー誌であるHot WacksにはWCF盤とCBM盤による「KUM BACK」が紹介されている程度であった。 80年代に刊行された「You Can't Do That」(Charles Reinhart 著)ではWCF盤、CBM盤、MAK盤の同タイトルが紹介されているが、World's Greatest 盤は記載されていない。ちなみにWCF盤とCBM盤はどちらもステレオの片方のチャンネルしか収録されていないWorld's Greatest 盤からのコピー盤で非常に貧弱な音質である。MAK盤は「S-1/2」のマトリクスをもち、一部の曲を除き良好な音質で収録されている初期に作られたブートレッグである。ただ「S-1/2」のマトリクスを持つブートレッグは、次のセクションで紹介するオリジナルのステレオ「KUM BACK」からのコピーであり、曲間の会話などはカットされていた。

右から

HOT WACKS

YOU CAN’T DO THAT (1981年) 

ILLEGAL BEATLES 

Archival Back Issues, 1986-1988 (1991年)


 日本では70年代末に刊行されたビートルズ・ディスコグラフィー(立風書房)の中ではわずかひとつのタイトルしか紹介されておらず、説明も乏しく正確では無かった。そういった流れの中で1985年発行のビートルズ海賊盤事典ではWorld's Greatest 盤も記載され情報の正確さが増してきている。しかし残念なことに、この本の中では「KUM BACKというタイトルのブートレッグにリアル・ステレオ盤は無い」、「最初にリリースされたのはWorld's Greatest盤である」といった記述にあるような認識でしかなかった。

また本文中にはMAK盤が紹介されているがステレオ記載が無いため、おそらく実際には著者が確認できていなかったと推測される。そしてWorld's Greatest盤が「KUM BACK」とタイトルされた最初のリリースと位置づけされているということはオリジナルのステレオKUM BACKがまだ確認されていなかったことを物語っている。

 日本のビートルズ海賊盤事典後、1986年から1988年までに発行されたものをまとめた、Illegal Beatles Archival Back Issues, 1986-1988 (1991年、Doug Sulpy 著)という本の中には興味深い一文があった。それは「I acquired a tape of the original GET BACK acetate…(私はオリジナル「GET BACKアセテート」のテープを手に入れた)」と始まる文章で、それが1969年9月ボストンWBCNでラジオ放送されたものであり、Get Back To Toronto、Get Back Sessions、Renaissance Minstrels Vol.2などのブートレッグの音源となったものと綴っていた。

 そしてその数年後の1993年「Posters, Incense And Strobe Candles」というブートレッグがリリースされた。

 その内容こそが、初期のオリジナル・ステレオKUM BACKに収録されたWBCNによる1969年9月22日放送の一部始終であり、DJの声も含む、実際にオン・エアに使用されたオープンリールのマスターテープから作られたものだった。可能な限り良い音質で作られておりCD化もされた。

「Posters Incense and Strobe Candles」と挿入されているライナー・ノーツ。  バック・カバーにはO.P.Dに関する記載がある

 しかしなお、この時点でもまだ1970年初頭のオリジナル・アナログKUM BACKとの関連付けはなされなかった。

 Doug Sulpy 910の1993年3 - 4 月号ではそのPosters, Incense And Strobe Candlesがレビューされたがここでも「Get Back To Torontoという古いブートレッグの音源元となったラジオ放送」という紹介内容にとどまりオリジナル・アナログ・ブートレッグのKUM BACK には触れていない。つまり1993年時点でもオリジナルKUM BACKの存在がコレクターの間に浸透していなかったことを物語っている。

 1990年代の後半、アメリカのファンクラブ会報誌であるBeatleFanには次のような記事が掲載された。タイトルは「Bootleg History」という記事でステレオ収録されたKUM BACKが1969年に発売されたと記述されている。そのエビデンスやデータについては触れていないのは残念だが、それは1969年にプレスされ、もう一つ別のコピー盤が同年12月までに作られたとも書かれてあった。

つまりは1990年代末に至るまでオリジナル、ステレオ「KUM BACK」について詳しい正確な情報は無かったのである。

その後はインターネットが普及しウェブ上には様々な情報がやりとりされるようになったようだ、少なくとも2007年にはJohn C Winn著のBEATLEGMANIA VOLUME TWOにおいてカラー写真で、レッド・スタンプカバー盤であるオリジナル・ステレオKUM BACKが紹介されている。

またこのセクションの最後にひとつ付け加えたいのだが、1993年の「Posters, Incense And Strobe Candles」のバック・カバーには「O.P.D.」というブートレッグについて触れている。それは「obscure(世に知られていない)」と表現されたが、1993年時点において「O.P.D.」に関する情報は皆無であったと言っていいだろう。「O.P.D.」についてはさらに後のセクションで紹介したい。

← BEATLEGMANIA VOLUME TWO

「Posters, Incense And Strobe Candles」のバック・カバー、及び「O.P.D.」

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