
ビートルズ・ブートレッグ 55年目の真実
Stories 3 「Whiskey Flats の真相に迫る!」
Get to the core of "Whiskey Flats"
(Jun, 2025 Upload)
Section 1 プロローグ (Prologue)
ブートレッグ・ファンの中にはTMOQイコール、オリジナルであるという先入観を持っている人がいたりする。音を確かめる前に先入観で判断してしまうことは無かっただろうか。「Whiskey Flats」はその典型であるかもしれない。
他ならぬ私自身もいつのまにか「フィラデルフィア公演である」とインプットされてしまった情報について、ろくな検証もせず、つい最近まで疑念を持たなかったのである。
Misterclaudelの制作したビデオの中に「Whiskey Flatの謎」というタイトルのものがある。その中で、フィラデルフィア公演のビデオと「Whiskey Flats」の音がシンクロしないことから、100%フィラデルフィア公演ではないと言い切っているのである。
多くの動画が発掘されたり、過去の記録がデジタル化されたり、ネット環境が当たり前となった時代に入り、ブートレッグに対してもこういった解析・分析のやり方あるのだと感心してしまった。ただどこかで思い込みや先入観が入ってしまったり、十分な検証もせずスルーしてしまう、人間の根本的な部分はいつの時代も変わらないのかもしれない。
そういった意味ではMisterclaudelのビデオは一石を投じてくれた意義あるものだった。
ところで冒頭より私が「Whiskey Flat」ではなく「Flats」としていることにお気づきであろうか?「Whiskey Flat」は(おそらく)TMOQの「In Concert At Whiskey Flat」に由来している、誰もが皆「Whiskey Flat」と呼ぶようになってしまった。WCFの「Live Concert At Whiskey Flats」にある「Whiskey Flats」と呼ぶ人は皆無である。しかしこれもまた、TMOQのK氏が「Whiskey Flat」盤の名付け親であるからオリジナルであるという先入観ではなかろうか?今回のストーリーズではできるだけ先入観が入らないよう注意深く検証したつもりである。最後まで読んでいただければ幸いである。
Section 2 現在に至る経緯 (History)
Whiskey Flats音源が最初に登場したのは1970年の「Alive At Last」(TVC1001)であったといわれているが、具体的な時期はわかっていない。少なくとも次に「In Concert At Whiskey Flat」(TMOQ)が10月にプレスされたので、「Alive At Last」は夏から秋にかけての時期であったと思われる。続いて「Live Concert At Whiskey Flats」(WCF, 510)が早くて1970年12月、もしくは1971年初頭に登場したと思われる。
当然この3つタイトルから、どこで行われた公演であったか全く想像がつかない。しかし、数か月後にTMOQはタイトルを「In Atlanta Whiskey Flat」としたため、「アトランタ」公演であると紹介されることもあったのだが、ジョージア州アトランタでは1964年、65年ともにコンサートは行っていないという事実が判明し、8月30日のニュージャージー州アトランティック・シティのコンベンション・ホールでのコンサートであると解釈するファンが出てきてしまった。


そういった憶測に、釘を打つかのように断定した記載をしたのが、1975年の「Hot Wacks Vol.1」だった。なんら説明は書いておらず、9月2日のフィラデルフィアのコンベンション・ホールとだけ記載されていたのだ。そして、確実な証拠もないまま、「9月2日のフィラデルフィアである」ことが当たり前になっていってしまった。
1985年発売のビートルズ海賊盤事典(講談社)の中では、特に証拠はないが有力視されている情報として扱い、それとともに、8月23日ハリウッド・ボウルでの昼・夜、どちらかの陽の目を見ていない方の録音ではないかという説を紹介している。
時が過ぎ、1993年にYellow dogが「The Ultimate Live Collection, Volume 1」(CD)をリリース、そこには9月2日のフィラデルフィアと明記されていた。また、ほぼ同じ時期にマーク・ルウィーソンによる「The Complete Beatles Chronicle」(初版 1992年)の中で この時のコンサートが地元のラジオ放送局によって放送されたという記載がされ、いっそうファンは確信するようになっていった。

←写真 「The Ultimate Live Collection, Volume 1」(Yellow Dog, CD)
以降、引き続き制作されたコレクターズCDやヨーロッパ製のアナログ・レコード等にも9月2日のフィラデルフィアと記載されるようになっていったため、なおさらのこと「確定的な証拠のない情報」が「誰もがそう信じる事」へと変貌していった。
そして、最初に紹介したMisterclaudelのビデオへと至るのである。
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