
ビートルズ・ブートレッグ55年目の真実
Review10 World's Greatest 盤 KUM BACK(+WCFについて)
非常に乱雑な印象を受けるWorld’s Greatest 盤だがこちらに「KUM BACK」をまとめ、最後にWorld's Greatest RecordsとWCFの関係を考えてみた。
World's Greatest 盤 「KUM BACK」のリリース時期や場所などの考察は「ストーリーズ/最初に出現したビートルズ・ブートレッグ『KUM BACK』と『O.P.D.』について」の「セクション14」に書いたのでご参照いただきたい。
またWorld's Greatest 盤 「KUM BACK」のバリエーションに関しては、すでにlivedoor-Blogへリストしてあるが、このページ内の整理番号にそれぞれリンクを貼ったので、そのつど参照していただければと思う。
この複雑なブートレッグを整理するために、「マトリックス」、「レーベルの色と形状」そして「マトリックスの組み合わせ」そして「カバーとスタンプ」からアプローチすることにした。
しかし、これら2つのブートレッガーに線引きをしておかねばならない。というのは、World's Greatest 盤という明確なカテゴリは存在せず、時にWCFというブートレッガーと同一視される。ただ、もう少し詳しく言えば、WCFという呼び名も明確ではなく、なぜそう呼ばれるようになったかについてはこちら(→Review06)に簡単に書いたが、あくまでHot Wacks誌の中で便宜的につけられた名称であった、決してブートレッガー自身がそう名乗ったわけでもない。このReview10では最終的にWorld's GreatestとWCFとは別のブートレッガーと結論付けたため、このウェブ・サイトでは線引きすることにした。
World's Greatest 盤は1970年初頭に出現したコピー盤専門のブートレッガーで、World's Greatestという社名とは別であっても、定型のホワイト・カバーにレッド・スタンプであるか、同様のマトリックスを持つブートレッグであればWorld's Greatest 盤とした。WCFはちょうどWorld's Greatest 盤の消失とほぼ同時期に入れ替わりで東海岸に出現したブートレッガーで、タイトルごとに社名を変えているが、これまた定型の「CAMPATABLE FOR STEREO」とプリントされたスリックを使用し1974年まで量産、その後Berkeleyと移行していくブートレッガーを指すことにした。
1. マトリックス
基本的にWorld's Greatest Recordsのブートレッグはコピー元のオリジナル盤マトリックスに似せて書いている。KUM BACKのマトリックスも明らかにレッド・スタンプのステレオKUM BACKに、似せて書いたものである。

World's Greatest Recordsの「KUM BACK」では、Side1及び、Side2にそれぞれ2種類ずつのマトリックスが確認されている。

Side1Type 1:「S」の上部が小さい Side1Type 2:「S」の上部が大きい

Side 2 Type 1:「5」の丸めた書き方 Side 2 Type 2:「5」は普通
2の後、筆記体の「o」のような字 2の後、筆記体の「e」のような字
そして、マトリックス・タイプにより次のような違いがある。
・Side A Type1 は Two Of Usの後、ポールのセリフがあり、Type2では収録されていない
・Side B Type1 は Don't Let Me Downの途中から高音が強調されてしまう
2. レーベルの色と形状
レーベルの色は、オレンジ、ピンク、シルバー、ブルーの4種類が確認されている。


頻度的に、最も多いのはオレンジ、次にピンク、そしてブルーとシルバーの順である。
レーベルの形状では大きな溝のある円形と小さなステップ型の円形がある。(下の写真参照)
Large Typeはセンター・サークルを中心に約2mm幅の外径73mmの円形溝がある。
Small Typeはセンター・サークルを中心に直径31mmの円形ステップがある。
シルバーのレーベルはLarge Typeしか確認されていないが、ブルー、オレンジ、ピンクでは両方のタイプが確認できている。

レーベル形状から以下のような特徴が確認できている。
・オレンジのLargeが一番多い ・シルバーのSmallは確認されていない
・ピンクのLargeとSmallは同数程度 ・オレンジとブルーのSmallは少数
3. マトリックスの組み合わせ
マトリックスの組み合わせ を含め、レーベルの色と形状の特徴をまとめると、以下のようになる。それぞれ整理番号はlivedoor-Blogのリンク先 となっている。
Matrix Side1 Type1 - Side2 Type1
最も多い組み合わせであり、ほとんどがオレンジのLarge Typeである。シルバーはこの組み合わせでしか確認していない。 参照 → KB06 KB07 KB08/09 KB10
Matrix Side1 Type1 - Side2 Type2
この組み合わせは少数で、オレンジのLarge TypeとSmall Type
及びブルーのSmall Typeが確認されている。 参照→ KB11 KB12/13
Matrix Side1 Type2 - Side2 Type1
この組み合わせでは、ほとんどがピンクのLarge Type 及びSmall Typeである。 参照 → KB15/16 唯一、ピンクではないケースはKB017のケースである。 参照 → KB17
Matrix Side1 Type2 - Side2 Type2
最も珍しいケースで、オレンジのSmall Type
でしか確認できていない。 参照 → KB014
4. ジャケットとスタンプの違い
次に、以上1から3の項目を考慮しつつ、ジャケットとスタンプの違いについて特徴をまとめると以下のようになる。それぞれ詳細は右側黄色で説明を付けたが、簡単にポイントのみを「Point」として書いた。

大きなスタンプのカバー KB10
このほかにもビッグ・スタンプ・カバーはいくつか確認しているが、すべてオレンジのLarge Typeで、マトリックスは Side1 Type1 - Side2 Type1 のタイプであった。(ちなみにRolling Stones / STONED [WG3 ]もそうである)
Point 2. 大きなスタンプのタイプではLarge Typeのレーベルであり、上記のような折り返しがあるタイプではない

KB14 マトリックスの組み合わせが Side1 Type2 - Side2 Type2 という最も珍しいタイプ。少数しか存在していないということは、考えられる理由として、この時にスタンパーの破損等、何かしらトラブルがあった可能性がある。

Point 4. 付属のスリックはWCFのものと同一である
マトリックスのタイプは Side1 Type2- Side2 Type1
このKB17ではSide1にオレンジ・レーベル、Side2にブルー・レーベルが使用されている。
KB17以外のこのマトリックス・タイプではすべてピンク・レーベルが使用されている。このケースで考えられることは、ピンク色の印刷が間に合わなかったため、半端になっていたオレンジとブルーを使ったか、あるいは、ピンクをすべて使用し無くなったため、残っていた半端のものを使用したかのどちらかではないだろうか。
またレッド・スリックはWCF盤と全く同一のものである。
5. World's Greatest盤「KUM BACK」それぞれの制作時期
項目4であげたPoint1~4と併せて、Bob Dylan, Rolling Stones, The Band のWorld's Greatest 盤(参照→ Reference Datum 003)のデータおよび、レビューした、「Reviews 08 "Silver" and "The Silver Album Of The Worlds Greatest"」に関する内容から、およそ時期に関して次のことが言える。
これらシルバー色のレーベルはすべて質的に同一で、一緒の時期にプリントされたはずで ある。
「Review 08 "Silver" and "The Silver Album Of The Worlds Greatest"」にも掲載したが Silverのオリジナル盤は1970年2月にニューヨーク近辺で出回った記事が2月18日付の新聞に掲載された。
となると、World's Greatestによるコピー盤が作られたのははやくて2月中旬から下旬、あるいは3月上旬であったろう。3月以降に作られた可能性も否定できないが、ストーリーズ1「セクション14」本文中に書いた、1970年3月7日発売のRolling Stone誌53号に掲載された、音質の悪い「COME BACK」(原文のまま)がWorld's Greatest盤のことであるならば、必然的に2月下旬ごろということになる。(参照→「セクション 14」)
これらピンクも、3つとも質的に同一のものであった。「Reference Datum 003 World's Greatest Records」を参照していただきたいのだが、ピンクのレーベルは後の方で制作された可能性が高いのである。
もしも、シルバー色のレーベルが早期に使用されたとするならば、これらは、より後の方のプレスで、その間にオレンジとブルーのレーベルが使用されたということになるだろう。
「Reference Datum 003 World's Greatest Records」の考察からおよそわかってきたことは。World's Greatest盤の初期では(およそ1970年2月頃)ジャケットに光沢のあるものが使用され、シルバー地のレーベルが最も初期である可能性が高い。
次に「KUM BACK」においては主にオレンジと、少数のブルーが混在する時期がありこれらのプレスは主にディスク・レーベルがLarge Typeとなるプレス機が使用された。一方で「Bob Dylan / G. W. W. Sings The John Birch Society Blues」ではSmall Typeとなるプレス機が使用された。この段階においても早い時期では光沢のあるカバーが使用され、次にフロントに折り返しのあるカバーが、レッド・スタンプとの組み合わせで使用されるようになったと思われる。
そして最終的にはピンク色のレーベルが使用されたと思われるが、KB17のようなケースもあるのではっきりとは断言できない。そもそもなぜ、同じWCFのスリックが「KUM BACK」や「Silver」に付属しているのか?次の項目6で検証・推察した。
6. なぜ、World's Greatest盤の付属のスリックはWCFがリリースしたものと同じなのか?
World's Greatest盤「KUM BACK」で使用されたスリックにはブラックで印刷されたもの他、レッド、ブラウン、ライト・グリーンで印刷されたものなど、のちにWCF盤で使用されたものと同一のものである。

←WCF盤 「KUM BACK」
使用されているスリックはWorld's Greatest盤のものと同一だが、音はWorld's Greatest盤からのコピーである。
スリックが同一、あるいはWCF盤のほうがオリジナル、しかし音質はWCF盤のほうが劣るという現象はこのケース以外でも頻繁に認められる。
(写真下 左側はWorld's Greatest 盤、右側はWCF盤「Let It Be -Live」)

こういった現象は実はWorld's Greatest 盤とWCF盤の間だけではないのである。他のブートレッガーとWCFにも同様の現象が起きている。
下の「Rolling Stones / ”STONED”(Stoned Again By The Rockers)」は1970年後半に制作されたブートレッグであり、World's Greatest盤ではないが、このケースにおいても、"STONED"に付属しているスリックは明らかに後にWCF盤で使用されたものよりも印刷が劣っている。また時期的にはWCF盤のほうが後の制作で、WCFの音質は"STONED"とほぼ同等であった。

←上段 フロントのスタンプは「THE ROLLINGSTONES ”STONED”」だが、ディスク・レーベルには「Good Times Records "Stoned Again" By The Rockers」とある。
下段 WCF盤(717-A/B)では、より鮮明なスリックで、ディスク・レーベルには「GOOD TIMES RECORDS」とプリントされている。写真右下は両スリックの拡大だが、明らかにWCF盤のほうが鮮明であることがわかる。
すでにリストしたBeatlesの「Last Live Show」(TVC)も同様のケースである。(下写真左→SHEA01)スリックは後に制作されたWCF盤(7001)下写真右→(SHEA02)より印刷が劣っており、ディスク・レーベルにはスリックと一致するタイトル、社名がある。
WCF盤(7001)のディスク・レーベルは上記GOOD TIMES RECORDS(717-A/B)のものとデザインと色は似ており、同時期に制作されたと思われる。別のTVC盤である「Alive At Last」ではWCFの印刷と同等のものと、複写されたもの両方確認されている。(参照→ Flat03・04 / Flat11・12 )


これら「Stoned」「Last Live Show」「Alive At Last」のケースから考えられることは、どうも「他のブートレッガーが使用することありき」でカバー制作をしている感があるのである。
写真右のThe Silver Album Of The Worlds Greatest(silv5)で使用された反射のないカバーに至っては、色・質ともにLast Live Show(SHEA05/06)で使用されたカバーとも同一なのである。
これまでは、WCFはWorld’s Greatest Records から派生したブートレッガーとみる向きがあったが、以上複数のケースから考えると、World’s Greatest Recordsに限らず、1970年から71年にかけて東海岸における複数のブートレッガーのためにカバー・スリックの制作を請け負っていたのではないかと考えるほうが正しいかもしれない。
KB17や、WCFと同じスリックが付属したWorld's
Greatest盤をどう考えるか?これはあくまで、私の個人的な推察になるが、Kustom
Records盤がDittolinoの手に渡った時、すでにプレスされた状態のレコードもDittolinoへ渡り、カバー・スリックのみ新しいものにして発売している。
World's Greatest盤も既にプレスされてあった在庫が、一定量WCFへ渡ったのではないか。それらをWCFが流通させるとき、彼らオリジナルのスリックを付けたのではないだろろうか。そしてそれ以降は、オリジナル・スタンパーを持っていなかったため、ディスク・トゥ・レコードし、独自のブートレッグも製作、量産していったと考えるのだが・・・。
「SLY AND THE FAMILY STONE / GREATEST HITS LIVE」(36-A/B) →
1970年9月のライブを収録。このレーベルも「GOOD TIMES RECORDS」や「Last Live Show」と同時期だろうか

↑「Review 08 "Silver" and "The Silver Album Of The Worlds Greatest"」の中でも紹介している反射のないシルバーカバーとLast Live Show(SHEA05/06)のカバーは全く同一のものである。

そして、音源に関してなのだが、「Last Live Show」(SHEA01/SHEA02)及び「Alive At Last」(Flat03/04/Flat11/12)でも触れた通り、WCFは決してコピー専門のブートレッガーではなく、貴重なマスター音源を利用しブートレッグを製作しているケースもある。「SLY AND THE FAMILY STONE」の「GREATEST HITS LIVE」のように、WCFだけのオリジナル・マスターを使用したブートレッグも製作されている。
WCFへのコレクターが持つ圧倒的な印象は「盤質が悪く最低の音質」と「コピー専門のブートレッガー」であった、しかし、実際とは異なっていたのはなぜか? 考えられる大きな一つの理由は、WCF独自のビジネス・スタイルがあったからではないか。この件に関しては、また別の「ストーリーズ」で「WCF」に触れる機会があるためそこで触れたい。